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さっきまでニコニコ笑っていたはずなのに
お風呂の時間になるとみるみる表情が険しくなって
「嫌だ嫌だ」と何かと理由をつけて
断固としてその場から動いてくれない…。
かれこれ1週間以上も入浴拒否が続いてる…。
サービス内容に入浴があるのにサービスの提供ができていないことも気になるし
尿臭もするし衛生的に週2回とは言わず週1回でも入浴してほしい…。
このような入浴拒否のある利用者さんの対応にお困りではありませんか?
ここでは認知症の利用者さんの入浴拒否の対応方法や声かけのポイントについてまとめています。
なぜ入浴拒否をするのか原因と対応のポイント
記憶障害や判断能力の低下、失行(物の使い方や、日常動作の手順や方法がわからなくなること)や失認(目の前の物や状況などが把握できなくなること)など、認知機能障害によるものです。
そもそも入浴を必要だと思っていない
利用者さんは認知症による記憶障害によって
前回お風呂に入ったのがいつだったか覚えていません。
お風呂に入ったことを忘れることもあれば
入ってないのに入ったと思い込んでしまうことで入浴拒否になることがあります。
お風呂に入ったばかりだと思っている利用者さん本人からすると
「え?お風呂なら昨日はいったけど?」
「入ったはずのお風呂になぜまた入らなきゃいけないの?」という感じなのです。
なのに介護職員に「1週間入ってないんだから」とか
「汚れてるからお風呂に入ってください」なんて言われると反発したくなりますよね。
対応のポイント
このような記憶違いによる入浴拒否がある場合は
背中や肩に薬を塗るなどの理由で脱衣室まで誘います。
その後「薬を塗る前にさっと身体流してきましょうか~」とか
「お湯が沸いたのでせっかくなのでどうですか~?」とさりげなく誘ってみましょう。
それでも拒否がある場合は、
「薬を塗るので、先に温かいタオルで背中や足を拭かせてください」と
清拭に切り替えればOKです。
清拭をしたあとに再度、入浴に誘うと
さっぱりして気持ちよくなるのか「入ろうかな」と心変わりすることも少なくありません。
入浴が面倒くさい
お風呂に入ることが面倒くさくて嫌、という利用者さんも存在します。
入浴するという行為は、ただ単に湯舟につかるだけじゃありませんよね。
当たり前のように洋服を脱いで、かけ湯をして
湯舟につかって洗髪・洗身して、洗顔して…身体を拭いて洋服を着て
髪の毛を乾かして…という手順がたくさんあります。
私たちが当たり前にしている入浴のこのたくさんの工程は
記憶障害や実行機能障害がある利用者さんにとっては大変な作業なのです。
ましてや高齢者にとって入浴は体力を使う
日常生活の中での一大イベントのようなもの。
本当はお風呂に入りたいけどその工程が面倒くさいし疲れるし…
という理由で入浴拒否につながる場合があります。
対応のポイント
このような利用者さんは、実際にお風呂に入れば気持ちいいと喜ぶ方が多いです。
なので、お風呂に入りたいという気持ちを引き出す声かけが
そんなときに入浴を勧められると、より意固地になり拒否してしまうのですが、実際に入ってしまえば、気持ちよいと喜ばれることも多いのです。
入浴したいという意識を引き出すには、言葉で繰り返し入浴を勧めるより、ご本人の好みの入浴剤や入浴道具などを見せて、入浴は楽しいものだ、気持ちよいものだという気持ちになってもらう方が有効です。
入浴介助の必要性を感じない
お風呂には入りたいと思っているけど介助されることが嫌で入浴を拒否する場合があります。
認知症になると、できないことが増えてきていても本人がその事実を認識しておらずお風呂に入るのに助けがいると思っていないことが多いです。
この場合、なぜスタッフが一緒にお風呂に入ってくるのか。
普通に自分でお風呂に入れるのに、職員に指示を出されたり手を出されたりするのか嫌で入浴拒否に繋がってしまうのです。
対応のポイント
利用者さんは自分で入浴できると思っていても実際はたくさんの危険が潜んでいる場所なので1人で入浴してもらうというのは施設的には厳しいもの。
大切なご家族さんをお預かりしている以上、自分で入れるからと言われても本人の言葉をうのみにするわけにはいきません。
浴室は狭いし滑りやすいので事故が起こる危険性がありますよね。
また、認知症なので入浴のひとつひとつの手順が分からなくなっていることもあります。
このような場合は、本人の気持ちを尊重して
なるべく自立して入浴できる環境を作ってあげることが大切になります。
床や浴槽内に滑りにくいマットを敷くいたり、
浴槽やをまたぐときに捕まることができるように手すりを設置しておきます。
基本的には、声をかけずにそっと浴室の外から様子を伺って
介助が必要なタイミングになったら「お湯加減はどうですか?」
「背中を流しましょうか?」などと声をかけて中の様子を確認しましょう。
くれぐれも、「大丈夫ですか?」「ちゃんとできてますか?」などという
出来ていない前提の自尊心を傷つけるような声かけはやめましょう。
・入浴に負のイメージがある
認知症の人は記憶障害によって新しいことを覚えることは難しいのですが、
体験したことを忘れたとしても体験したときの感情にまつわることは覚えています。
散歩に行ったことは忘れてしまったけど
気持ちがよかったことは覚えているのです。
なので、以前のお風呂の時に何か嫌な体験をしていた場合
嫌な思いをした感情が心に残ってしまっています。
例えば…
無理やり服を脱がされた
服を脱いだ時に失禁してしまって恥ずかしかった
洗い方に口を出されてイヤだった
いきなりシャワーをかけられた
ゆっくり入浴できなくて嫌だった
強引な洗髪で嫌だった
など、介護職員は全くそんなつもりはなくても
利用者さん自身が羞恥心や不満を感じていた場合
お風呂に対して嫌なイメージをもち入浴拒否につながる場合も多いです。
対応のポイント
入浴に対して負のイメージを持ってしまっている場合は、お風呂はリラックスできて気持ちのいいところだということをわかってもらわなければいけません。
嫌なことをされる嫌な場所と認識してしまっていると
なかなか誘い出すのも難しいと思うので声かけの工夫が必要になります。
「背中にお薬塗りに行きましょう」と声をかけたり
レクレーションを楽しんだ流れで誘導してみましょう。
また、少しでも自分の力でできることをしてもらうために
なるべく脱ぎ着しやすい服を着るようにして
介助しなくても自分で脱げるようにする工夫も必要です。
わたしたち介護士は決められた時間に決められた人数の入浴を済まさなければいけないため、入浴介助は流れ作業で淡々と行いがちです。
介助をする際はできることは本人にしてもらって
介助は最低限にし、本人のペースに合わせてゆっくり行いましょう。
入浴が何かわからない
入浴拒否をする利用者さんの中には言葉の意味を理解できていない方がいる場合があります。
「入浴の時間ですよ」「お風呂に入りましょう」と声をかけても
「入浴」とか「お風呂」の言葉の意味がわかっていない状態です。
何を言われているか理解できていないため
立ち上がることもなければ、全く違うことを話はじめたりして
なかなか入浴につなげることができません。
対応のポイント
入浴の声かけをして反応がなく意味を理解していないようであれば
使う言葉を変えて声かけをしてみましょう。
「入浴」が理解できないなら「お風呂」。
「お風呂」がわからないなら、「背中ながしに行きましょう」。
それでもだめなら「頭をあらってきましょう」「温泉」「銭湯」などなど
本人が理解できる言葉を使って声をかけてみると効果的です。
また、お風呂の写真を見せたり、ジェスチャーを交えてみたり、
お風呂で使う道具(石けんやタオル)を見せると思い出すことができる場合もあります。
他にもお風呂であることを伝えずに浴室まで誘導して
実際に湯気の立っているお風呂を見てもらうことで
スムーズに入浴してくれることもあります。
恥ずかしいから嫌
自立度がまだ高い利用者さんや、比較的若い女性の利用者さんの場合
恥ずかしさがあるゆえ入浴拒否をすることがあります。
また、太っていることを気にしていたり身体に大きなアザがあるなど
自分の身体にコンプレックスのある方も人前で裸になるのを嫌がることが多々あります。
介護士が異性の場合は抵抗がある人がほとんどでしょう。
下着やパットの汚れを見られるのが嫌な方もいます。
服を着たままそばにいる介護士の横で
なぜ自分だけが裸になってお風呂に入らなきゃいけないのか。
じっと見られていてプライバシーなんてない状態だとますますお風呂に入るのが嫌になってしまいますよね。
対応のポイント
入浴は裸になるという、心も体も無防備な状態になる行為です。
人の手を借りて入浴するということは、同じ立場に立って考えるとわたし達でも恥ずかしいことですよね。
認知症が進んでくると衣類の着脱やシャワー等の使用方法は
つまづきやすい行為になのでどうしても介助が必要になってくることが多いです。
なので、入浴介助をする場合は本人の羞恥心を刺激しないように注意することが大切になります。
まずは介護士が異性であるならば同性のスタッフと担当を交代して声をかけてみる。
裸を見られるのが嫌な利用者さんなら
どちみち洗たくするのですから下着をつけたまま入浴してもらえばよいでしょう。
洋服を脱ぐときには後ろ向きになって別の作業をしてるフリをしたり
タオルで目隠しをしてあげるなど十分な配慮をしてあげましょう。
お風呂に入るタイミングではない
利用者さんには利用者さんの生活のリズムやタイミングがあります。
私たち職員がお風呂に入ってほしい時間と
利用者さんがお風呂に入りたい時間がマッチしていない場合
入浴拒否につながる場合があります。
一般的な入浴の時間は1日のお終わりの夜ですが
施設での入浴は午前中のことが多いですよね。
そのため
「夜に入るから結構です」なんて断られることがあります。
他にも見たいテレビ番組があったり、レクレーションに夢中になっている
眠たい、疲れている、動きたくないなど利用者さんのタイミングに合っていないときも
入浴拒否になることがあります。
対応のポイント
誰だって何か夢中になっていることがあるときに
別のことを言われてもやりたくないですよね。
利用者さんがテレビに夢中で拒否しているのであれば
テレビが終わったら声をかけてみればいいですし
体操をしているのであれば体操が終わってから声をかけましょう。
その人の入浴の順番を入れ替えて
待っている間に他の方の入浴を済ませておきましょう。
「夜に入る」と訴えてずっと入浴できていない方がいる場合には、
スタッフの配置を工夫して夕方や就寝前に入浴できるようにしてみると
入ってくれる場合があるので試してみるといいですよ
お風呂が嫌い
もともとお風呂が嫌いな利用者さんも入浴の拒否が起こりやすいです。
「私お風呂嫌いなの」と拒否されてしまいます。
もちろん本当に嫌いな場合もありますが
お風呂の手順がわからなくなっていることに対しての不安から
強がって「嫌い」と言っている場合もあります。
このような利用者さんは
お風呂に入ってしまえば気持ちいいと喜ばれることが多く
浴室まで誘導することさえできれば入浴できる可能性が高くなります。
対応のポイント
お風呂嫌いの利用者さんには「気持ちいいですよ~」といった声かけよりも
簡単に済ませることができることを伝える声かけをしましょう。
「さっとでいいですよ」「シャワーで済ませちゃいましょう」
「では、着替えだけしてきましょう」などが有効です。
他にも「明日、病院の日なので」や「午後から〇〇さんが来るので」など
本人にだけ通用する声かけを見つけられるとすんなり入浴できることがあります。
声かけのポイント
入浴拒否があるときの声かけは「なぜ入浴拒否をするのか」の
原因をまず探ることが大切になります。
拒否されたときは、無理強いせずにまずはその気持ちを受け止めます。
入らないとダメ!という言い方は絶対にしないようにしましょう。
普段からしっかりと利用者さんのアセスメントをとっていれば
本人の生活スタイルやこれまでの生活歴、性格など見えてくる部分は多くあります。
本人が納得しそうな理由や興味をひきそうな言葉を
スタッフみんなで考え共有し誘導の仕方を工夫してみましょう。
声のトーンやスピード、表情にも注意しながら
利用者さんに伝わる声かけをすることが大切です。
まとめ
入浴拒否があったときは無理強いはせずに
まずは本人がなぜ入浴を拒否するのかを考えてみましょう。
誘導の仕方を少し工夫するだけでスムーズに入浴してくれることもあります。
拒んでいるのに不衛生だからといって無理に入浴させる行為は
利用者さんの混乱や不安を倍増させ、
入浴拒否だけでなく生活全般へに負の影響を与える場合もあります。
入浴の中止・回数が減ることは、決して悪いことではないということを私たち自身も理解しておくことも大切です。