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「玄関はどこ?」「そろそろ帰りますね」「どうもお世話になりました」
なんて丁寧にお辞儀をして帰ろうとする
帰宅願望のある認知症の利用者さんの対応にお困りではありませんか?
私たち職員が忙しい時間に限って、すぅーっと扉のほうに向かって歩いて行ったり
「じゃ、そういうことなので…」なんて声をかけてきて。
とりあえず納得しても5分後にはまた同じことの繰り返し。
認知症だから仕方ないとはわかっていても、さすがに滅入っちゃいますよね。
ここでは帰宅願望のある利用者さんにどのような対応をとるべきなのか、
原因や対応方法についてまとめています。
帰宅願望が起こる原因
帰宅願望は、認知症のBPSDのひとつ。
「家に帰りたい」と訴えたり、実際に帰ろうとする症状です。
帰宅願望は、文字のとおり家に帰りたいと願うことに違いありませんが、
利用者さんが必ずしも家に帰りたいと思っているわけではない場合があります。
なぜ帰りたいと思うのか、その原因の部分に本質があるのです。
認知症の人のBPSDは、不安や孤独感や焦りなどが大きくかかわってきます。
家に帰りたいという訴えの裏側にある利用者さんの本当の想いを
わたしたちは、理解して対応しなければいけないのです。
「家に帰りたい」という行動には本人なりの理由があって
利用者さんによってその理由もいろいろです。
何に不安を感じているのか? どうして落ち着かないのか?
それをくみ取った対応をすることで帰宅願望を軽減することができるようになります。
自分のいる場所がわからない
認知症になると記憶障害や見当識障害などの中核症状が現れます。
自分がいる場所や、なぜここにいるのかが分からなくなることで不安やストレスを感じてしまいます。
頭がスッキリしているときとモヤモヤしているときがあって
モヤモヤしているときに帰宅願望が現れることが多いです。
居場所がわからないだけでなく、周りにいる人も知らない人ばかり。
行きたいところがあるけれど行き方がわからない。
何もかもが分からない・知らない世界にいる状態なんだから
不安だし、焦るし、孤独だし、怖いし、
そりゃあ誰だって、落ち着く自分の家に帰りたいと思いますよね。
仕事に来ている(遊びに来ている)と思っている
認知症の人は自分が施設に入所しているということを理解していないことが多いです。
利用者さん本人が生きている時代が現実ではなく過去なんです。
自分が80代のおばあちゃんだということを理解しておらず
現役で働いている・遊びに来ていると思っているため
夕方になると「息子のご飯作らないと…」という感じで帰宅願望が現れたりします。
環境が変わった影響
施設に入所して間もないころは、落ち着きがなく帰宅願望が強く現れることが多いです。
入所して、だいたい1か月たつ頃までは、
環境の変化に慣れていないので落ち着かず帰りたがる場合があります。
住環境だけでなくちょっと部屋の模様替えをしたり
カーテンの色を変えたりするだけでも違う場所だと思ってしまって
居心地が悪くなり帰宅願望につながることがあります。
・夕暮れ症候群
帰宅願望は夕方に起こりやすいといわれています。
この時間帯を夕暮れ症候群と呼んでいます。
実際にわたしが働く施設でも
夕方からそわそわ落ち着かなくなり利用者さんがいます。
赤ちゃんの夕暮れ症候群というのも聞いたことがあるかもしれませんが
認知症の夕暮れ症候群も同じようなものです。
夕方というのは、学校から子供たちが帰ってきたり
ママたちは夕飯の支度をはじめたり忙しい時間帯。
施設でも送迎の時間だったり、早番さんの終業時間だったり
夜勤者さんの始業時間だったり、夕飯の支度がはじまる時間だったり。
人の出入りが激しくバタバタする忙しい時間帯なので
利用者さんの心もそわそわしてしまうわけです。
周囲があわただしくしていることが影響して
身体が動いてしまうというか、昔の記憶から「夕飯の準備をしなきゃ…」
となって帰宅願望につながることもあります。
帰りたいと言われたらどう対応する?
帰宅願望が合わられる時間帯や状況などの傾向が
すでにわかっているなら訴えが出てくる前にうまく対応することができますが
いざ、帰宅願望が現れてしまうと、おさまるまでの対応はなかなか難しいですよね。
上手く対応しないと逆効果になって不穏になってしまいます。
忙しい時間帯に現れやすい帰宅願望ですが
利用者さんと職員が1対1で向き合える時間を作って対応するようにしましょう。
忙しいからといって、適当にあしらってしまうと逆効果で
ますます訴えが強くなったり、帰れないことで怒ったり暴れたりする場合があります。
このときばっかりは、通常業務は相方職員に任せて、
あなたは利用者さんについているようにするなど、職員同士で役割分担をして対応しましょう。
やってはいけないNG対応
帰りたいと訴えている利用者さんに
「今日は帰れませんよ」とか「もうここが家です」など、
帰ることを否定するような声かけはNGです。
否定的な声かけは利用者さんをますます不安にさせて混乱を招きます。
また、何度も繰り返して訴えてくることを億劫に感じて
部屋に閉じ込めたり玄関に鍵をかけて出れないようするものNGです。
利用者さんの行動を制限するのは身体拘束にあたりますし
閉じ込められていることで、利用者さんが怒ってしまったり
窓を割って出ていこうとしたり、施設から抜け出したりするリスクもあります。
帰りたい理由を聞いて不安を取り除く
利用者さんが家に帰ろうとする行為には必ず理由があります。
まずは、じっくりと話しを聞いて理由を探ってみましょう。
人によって帰りたい理由はさまざまです。
まずは会話をして、利用者さんが不安に感じていることに対して
安心できる声かけをして不安を解消してあげましょう。
安心できる環境を作る
居心地が悪くて帰りたいと訴えているのであれば環境を整えましょう。
ざわざわしてうるさいのが苦手で落ち着かないなら静かなところへ
見慣れない場所に不安を感じているのであれば、なじみのものを周囲において置いたり。
本人がここが自分の居場所と感じられるように
指定席を決めておくなど、定位置を作ることもこすすめです。
帰りたい本当の理由をさぐる
認知症の人は、記憶障害や見当識障害など認知機能や判断力が低下しているため、思っていることや考えていることを上手く相手に伝えることが苦手です。
なので、帰宅願望が現れたからといって
必ずしも家に帰りたいと思っているわけではありません。
わたしたちも、お腹がすいたら家に帰って何かだべようと思いますよね?疲れたから家に帰ってゴロゴロしようと思いますよね? ?
それと同じで認知症の利用者さんも、お腹がすいたから家に帰ろう、疲れたから家に帰ろう、眠たいから家に帰ろうと思うわけです。
認知症でなくとも、「お腹が空いたから家に帰ろう」「疲れたから帰りたい」という思いが湧くのは自然なことです。認知症の方も同じように、お腹が空いたから、眠くなったからなどの欲求が、帰宅願望として現れることもあります。
家に帰りたいわけではなく、お腹がすいている、休みたいのが本音なのかもしれません。
のどが渇いてないか?
からだに痛みやかゆみがないか?
何もすることがなくて不安になってるんじゃないか?
家族に会いたいと思ってるんじゃないか?
疲れたから休みたいんじゃないか?
お腹がすいてるんじゃないか?
眠たいんじゃないか?
トイレに行きたいんじゃないか?
便が出てなくて苦しいんじゃないか?
安心させる嘘は一時的にはありだと思う
賛否両論かもしれませんがわたしは帰宅願望の声かけで
嘘をつくのはアリだと思っている派です。
あなたは認知症で家族がもう面倒を見ることができないから施設に入っています。
わたしたちはお金をもらってあなたの介護をしているので出ていかれると困ります。
家族はあなたが帰ってくることを望んでいません。一生、ここにお泊りですよ。
なんて、本人に言えるわけなくないですか?
根本的な解決には至らないかもしれませんが、
わたしは、利用者さんの不安を解消するための嘘をたくさんついています。
「帰ります」と言われたら
「先ほど息子さんから電話があってもう少ししたら迎えにくるとのことでしたよ」と。
すると、「あら、そうなの?じゃぁ待ってるわ」と席に座ってくれます。
そして一緒にお茶をして話をしながら
違う方向に話をもっていき、違うことをはじめていつの間にか忘れてる、という感じ。
もちろん息子さんから電話なんてないですしお迎えにもきません。
でも、利用者さんの不安を和らげることができる安心させる嘘ならいいと思っています。
ただ、認知症の程度によっては話を覚えていたり、
声のトーンや表情で嘘だと読みとることができる方もいるので
むやみな嘘はつかないようにしましょうね。
まとめ
繰り返される帰宅願望にイライラすることも多いと思いますが
利用者さんの帰宅願望は本人に寄り添ってあげることが大切です。
忙しいのはよーくわかりますがイライラせずに、
かつスムーズに仕事をすすめるためには、第一に利用者さんを優先して
ゆっくり話をきいてあげることが近道です。