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認知症の利用者さんの暴力行為にお悩みではありませんか?
叩かれ蹴られ…ツバを吐かれ…
身を守るため、とっさにやり返そうとしちゃったり…
つい声をあらげちゃったり…
利用者さんのために一生懸命に介助をしているつもりなのに
一体なんでこうなるの?
認知症だから仕方ない…
おさまる時期がくるまでただただ耐えるしかないのかな…
なんて悩んだり、イライラしたりして嫌になっちゃっていませんか?
ここでは認知症の方が暴力をふるう理由や対応方法についてまとめています。
認知症の人が暴力をふるう理由
認知症のある利用者あさんが暴力や暴言をふるってしまう理由はいろいろあります。
認知症だから暴力をふるうのではなく
そのひとつ手前に原因があるため暴力という症状として表立ってしまうだけなのです。
原因はひとつではなく、いくつかの原因となる要素が絡み合って
暴力や暴言といった症状として現れてくることがほとんどです。
不安を感じて混乱している
認知症になると記憶障害や見当識障害などにより
今の自分が置かれている状況が理解できなくなってしまいます。
理解できたとしてもすぐに忘れてしまうため
利用者さんは、何もわからないことに常に不安を感じている状態で
助けを求めるSOSが「暴力」となってしまっているのです。
わたしたちも、なぜここにいるのか、目の前にいるのが誰なのか
これからどうなるのかが分からないと心細くて不安ですよね。
朝、目が覚めたら知らない土地に独りぼっちで
知ってる人もおらず言葉も通じない状態だったらあなたも怖いですよね。
何が起こっているのかわからない
これから何が起こるのかわからない
何をされるのかわからない
この不安や混乱が暴力の原因のひとつなのです。
私たちにとってはいつもと同じいつもの排せつ介助でも
認知症の利用者は状況を理解することができず介護抵抗につながるのです。
感情のコントロールがうまくいかない
認知症になると自身の感情のコントロールを上手くできなくなってしまいます。
通常であれば、多少嫌なことがあってイラっとしても
我慢して感情を表に出さずに対応することができますよね。
認知症になると感情を抑制する機能をもつ脳の前頭葉が萎縮してしまうので
イライラした気持ちを抑えることができなくなってしまうのです。
さらに、怒りや不安の気持ちを上手く表現できないことから
暴言や暴力行為に繋がってしまいます。
自尊心が傷つけられている
認知症だから何もかもわからなくなっているのではなく
自分ができることが減ってきていることは自分で理解しています。
それでもこれまでの人生で築き上げてきたものがあるため
高齢であっても認知症であってもその人その人にプライドはあるはずです。
なので、介護士が過度に心配をしたり
試すような発言、バカにしたような発言や、子供扱いなどをすると
利用者さんの自尊心を傷つけてしまいます。
「大丈夫?」「ひとりでできる?」
などといった私たちの何気ない発言も
自尊心を傷つけてしまっているかもしれません。
自尊心が傷つけられれば腹が立ちますし悔しくて悲しくなりますよね。
認知症の利用者さんはその気持ちを上手く伝えられないため、
それが暴力となり現れてしまいます。
体調が悪い・不調である
認知症になると人に上手く気持ちを伝えることが難しくなるため
身体に痛いところがあっても、便秘でお腹が苦しくて痛くても
その事実をわたしたちに伝えることができなくなっていきます。
もちろん自力で判断して医者にいくこともできなければ
ばんそうこうを張ることも、牛乳を飲んだり下剤を飲むなども難しいいです。
傷みや身体の具合が悪いことは想像以上のストレスですし
そんなときに、理解できてないままどこに連れていく?何をする?と
余計に怒りを覚えてしまい暴力をふるう場合もあります。
飲んでいる薬の影響
飲んでいる薬の副作用で暴力的になる場合もあります。
認知症のお薬として有名な「ドネペジル塩酸塩」は
副作用として食欲不振や便秘や下痢、嘔吐などがありますが
認知症が進行していると暴力や徘徊、幻覚など
認知症のBPSDが副作用として現れることがあります。
薬を飲み始めてから攻撃的になったと考えられる場合は
医師に相談してみることをおすすめします。
他にも高齢者はたくさんの薬を同時に服用している人が多いので
医師や薬剤師が飲み合わせについても相談してみるといいでしょう。
暴力があるときの対応方法
まず、認知症の人が暴力をふるうときは
わたしたち介護者を困らせようとしているわけではなく
「認知症の症状のひとつである」ことを
きちんと理解しておくことが大切です。
利用者さんは暴力をふるいたくてふるっているわけではないため
不安や怒りの原因を探って取り除いてあげましょう。
大声や力で押さえつけるのはNG
利用者さんに暴言や暴力があるときに
一番よくない対応は力や言葉で対抗することです。
私たちも感情のある人間ですから
突然叩かれたり怒鳴られると、とっさに叩き返そうとしてしまったり
大きな声を出してしまうこともあると思います。
自分を守るために仕方ない場合もありますが
基本的に暴力をふるう利用者さんを抑えつけたり叱りつけることは逆効果です。
利用者さんに恐怖や怒りを感じさせてしまうことになり
状況を悪化させ、ますます症状をひどくさせてしまいます。
物理的な距離をとる
もし利用者さんが暴力をふるってきて身の危険を感じた場合は
一度その場から離れるようにしましょう。
利用者さんが興奮しているときには何を話しても通じず
余計に興奮させてしまうためすぐに対処しなくても大丈夫です。
まずは距離をとって危険なことがない限りしばらく見守ります。
その間に、一呼吸おいて冷静になってみましょう。
あなたが利用者さんのターゲットになっているようなら
他に対応できる人に対応を変わってもらいましょう。
感情的な距離をとる
利用者さんと物理的な距離がとれたら、
あなた自身の気持ちのクールダウンをしましょう。
わたしたちも人間ですから暴力を振るわれたらイラっとしますし
暴言を吐かれれば傷つきますし辛いです。
そのカァーっとなっている気持ちを落ち着ける必要があります。
利用者さんが見えないところに言ったり
気分転換に違う業務をしたり、少し外の空気を吸ってくるなどがおすすめです。
誰かに話す・相談する
介助のたびに暴言や暴力行為があると
わたしたちも参ってしまいますよね。
かといって介助しないわけにもいかないので多少叩かれたり怒鳴られたりしても
手早く介助を済ませて我慢している人も少なくないのではないでしょうか?
ストレスがたまっている場合は、
同僚に愚痴ってもいいと思います。
もちろん利用者さんがいない場所で
外部の人がいない場所(休憩室など)で限定になりますが。
カンファレンスはもちろん、介護の現場ではどうしても
「いいこと」しか口にできない風潮がありますが
「嫌だ」「腹立つ」などの感情を仲間に話すのも
気持ちを落ち着けて冷静に介護を行うためには必要なのではないでしょうか。
他人に話したところで…と思うかもしれませんが
誰かに話しをきいてもらうことは辛い気持ちを癒す手段のひとつなのです。
暴力を防ぐためにできること
認知症の症状として現れる暴言や暴力は
わたしたちの関わりを変えることで改善することができます。
なぜ暴力をふるうのか、起こった出来事から
原因を探ることでどのようにかかわっていったらいいかが見えてきます。
利用者さんが暴力をふるったタイミングや状況
トリガーとなった出来事を振り返って考えてみましょう。
気を付けなければいけないのはスタッフが暴力を振るわれたことを隠してしまうことです。
ケアの質や対応が悪いと思われることを恐れて
なかったことにしてしまう場合があります。
また、暴力を振るわれたことでスタッフ自身が興奮してしまい
客観的に物事を見ることができなくなってしまうことが多くあります。
「私は悪くない」という前提で状況を報告してしまうことです。
このような状況だと、探れる要因も正しく探れなくなるため
日ごろからの職員同士でコミュニケーションをとり職場環境を良くしておくことが大切です。
不安や混乱が大きくならないようにする
普段から利用者さんと一緒にいると
不安そうな表情をしているときや混乱している状況にいち早く気が付くことができます。
忙しいからといって放ったらかしにせずに
積極的にコミュニケーションをとるように心がけましょう。
今どんな状況で、これから何をするのかなど
わかりやすく本人につたえたり世間話をするなどして場を和ませます。
利用者さんは認知症なので話をした内容をすぐに忘れてしまいます。
何度も同じことを繰り返し聞いてきたり
すぐに不安な表情を見せることもありますがその都度ていねいに伝え
不安や混乱によるモヤモヤが大きくならないように対応しましょう。
否定しない
利用者さんは認知症によってわからなくなる現実を
必死に理解して辛いおもいをしながら自分なりの答えをみつけようとしています。
私たちから見て普通のことでない事で
現実からズレたことをしていたとしても、否定しないことが大切です。
「ダメ」とか「やめて」は典型的な否定の声かけです。
他にも気づかず無意識に「でも」とか「だけど」と言ってしまいがちですが
何気ないその一言が利用者さんにとっては「否定」と感じられる場合もあるので注意が必要になります。
自尊心を傷つけないようにしましょう。
利用者さんは自分の様々な機能が衰えてきていることを
自分自身で少なからず理解していると思います。
それでも見栄やプライドなどから「できる」と主張してできないことも多々あるでしょう。
できないであろうことに対して「ほらね」とか「違う」「そうかない」「できない」などと
否定されれば、だれでも傷つきますよね。
「わかる?」「ひとりでできる?」「大丈夫?」などの過度な心配も
利用者さんの自尊心を傷つける可能性が高い声かけになります。
わたしたちの、心配や配慮などの利用者さんを想う気持ちや気遣いが
場合によっては自尊心を傷つけているかもしれないということを意識していましょう。
本人の気持ちを確認してから介助する
あなたは利用者さんの介助をするときに声かけをしていますか?
声をかけるだけでなく返事を待ってから利用者さんに触れていますか?
声をかけずに身体に触れたり、同意を得ずに介助をすることは
利用者さんにとっては苦痛でしかありませんよね。
急に腕をつかまれたり腰を持ち上げられたりすれば誰だってビックリしますし
何をしようとしているのかわからなかったら怖いですよね。
そりゃ、抵抗しちゃいますし暴力や暴言に繋がってもおかしくありません。
介助をするときにはか利用者さん本人の気持ちをきちんと確認しましょう。
また、本人がやりたいことを辞めさせたり
力ずくで抑え込もうとすることも本人の気持ちを無視した介助になりますね。
感情のコントロールをする
認知症の人は感性がとても豊かなので
相手のイライラした気持ちを察することが得意です。
そして私たちの感情を映し出す鏡でもあるため
私たちの負の感情を敏感に感じて伝染してしまいます。
私たちがプライベートのことでイライラしていたり
仕事がうまくいかなくてイライラしたり、忙しくてバタバタして焦っていると
利用者さんも不安定な状態になってしまうのです。
作り笑いで接していても微妙な表情の変化や
声のトーンなどで利用者さんには伝わってしまうので
自身の感情をコントロールすることが大切になります。
自分なりのストレス発散方法をみつけて
明るい笑顔で利用者さんと接することができれば
利用者さんの心も常に安定した状態が維持できるのではないでしょうか。
医療機関を受診する
認知症の人は自分の不調をうまく伝えることができないため
体調が悪く辛い状態が続いていることから暴力や暴言に繋がっている場合もあります。
もしかすると見た目やバイタルチェックでは見えない
身体の不調があるかもしれないでの内科や整形外科を受診してみるのもおすすめです。
また、高齢者は複数のお薬を飲んでいることが多いため
薬の副作用や飲み合わせの面から症状が出ているかもしれませんので
一度診察してもらうといいでしょう。
関わりを変えてどんなに工夫して接しても
暴力や暴言が改善されない場合は認知症の専門医に相談すれば
適切な向精神薬の処方も行ってくれます。
ただし、強い薬でおとなしくさせるという考え方をするのはNGです。
まとめ
認知症の方の暴力行為には理由があります。
悪気があって叩くわけではないので冷静に受け止めるようにしましょう。
暴力が起こったら一時的に距離をとりクールダウンして
暴力をふるうことになった原因をみつけましょう。
普段から表情や声かけを意識して関わるだけでも暴力行為がなくなることも少なくありません。
私たちが利用者さんのためにした行動が
原因になる可能性があることを意識して日ごろから安定したケアを行いましょう。