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認知症の介護をしていると急に「財布がなくなった! !あんたが盗ったんでしょ!」
なんて利用者さんに疑われたこと、ありませんか?
もちろん盗ったりしてないし、なんなら部屋にも入ってないし…
そもそも、あなた最初から財布をもってないですよね??って話。
とはいっても相手は認知症なので違うといっても信じてくれないし、
本人はいたって本気で、真顔で真剣に訴えてくる。しまいには興奮して怒り出す始末…
こっちの話には耳も傾けてくれなくて対応に困ってしまいますよね。
いつも仲良く話をしているし、いつも本人さんを想って一生懸命介護をしているのに
疑われたり怒鳴られたり、犯人扱いされて信じてもらえないのは本当にショックですよね。
ここでは、認知症の被害妄想である物盗られ妄想について
どのように対応するのがベストなのか物盗られ妄想の原因や背景、対応方法についてまとめています。
認知症の物盗られ妄想ってどんな症状?
物盗られ妄想とは、認知症になると起こりやすい被害妄想の中のひとつの症状で
自分の大事にしていたものを誰かに盗られた!と訴える症状で
認知症発症の初期の段階から現れる症状です。
よくあるのは、お金(財布)を盗られたとか
通帳や宝石などの財産に関するものを盗まれたと思い込んでしまうことが多いです。
もちろん、被害妄想なので実際には盗まれていないのですが
警察に通報したり、ご近所さんを疑ったり、お嫁さんを犯人扱いするようになったり。
介護施設の場合は他の利用者さんを疑ったり
職員を疑って攻めるようになったりもします。
そして、その思い込みを思い込みとは思わず
事実であると信じて疑わず、訂正がきかない状態になってしまいます。
物盗られ妄想の原因は?
物盗られ妄想は、認知症による記憶障害と
その症状を認めたくない不安から起こります。
自分の記憶障害を認めることができないために
本当は自分が財布を置き忘れているのに、誰かに盗られたと認識してしまいます。
他にも身体の疾患によるものやストレス、孤独、不安、疎外感などの
心理的な要素から物盗られ妄想の症状が現れることもあります。
記憶障害や思考力の低下が原因
年をとると誰でも物忘れをすることはありますよね。
たとえば「置き忘れる」ことは誰でもあると思いますが
通常の場合は自分が置き忘れたという自覚があると思います。
でも、認知症の物盗られ妄想の場合は自分が置き忘れたという自覚がないのです。
物忘れ妄想は自分が置いた場所を忘れるだけじゃなくて
自分が置いたという体験そのものを忘れてしまうのです。
認知症の中核症状である記憶障害により
大切なものをしまったことを記憶することができないため
「自分が片づけた」という事実を覚えていないので自分が失くしたとは思わないわけです。
なので探してみるという行為をすることもなく
「ない=誰かが盗んだ」とすぐに判断してしまいます。
<心理的な問題が原因>
認知症の物盗られ妄想などの被害妄想のほとんどは
認知症になった本人が感じる苦しみや周りへの不満などの様々なことが原因になって現れます。
物盗られ妄想が現れるときは
認知症の本人からの現状に対するヘルプの意味もあるといえます。
物盗られ妄想の症状が現れる認知症初期の段階は
認知症である本人も、頭がスッキリしているときとモヤモヤしているときがあります。
少しずつ分からないことや出来ないことは増えてくることに
不安や焦りを感じている時期でもあります。
認知症になった不安、老化への不安、一人暮らしの不安、孤独感、
家族や介護施設のスタッフに対しての怒りや悲しみなどいろいろな感情が深くかかわっているのです。
物盗られ妄想は身近な人が犯人にされやすい
物盗られ妄想は、普段よい関係を築いている人に対して起こりやすいといわれています。
皮肉なことに直接本人にかかわっている人、いわゆる介護している人が
「犯人」「泥棒」にされやすい傾向が多くあるのです。(嫁や娘、ヘルパーさんや施設の職員など)
介護している側としては懸命に介護しているのに
犯人扱いされたらたまったもんじゃないですしショックですよね。
財布がないことに気が付いた認知症の本人は
間違っても自分が失くしてしまったとは思わないため
なくなった事に気付いたら即
「誰かが財布を持って行った」「誰かに盗られた」と考えてしまいます。
そしてそのときにたまたま近くにいる
いつも介護をしてくれる人が目に入るとその人が犯人だと確信してしまうのです。
認知症なので、相手を泥棒扱いし疑うことで
人間関係が悪化する可能性があることを考えることもできませんし
どんなに否定しても、説明しても
その確信を訂正することは難しくなります。
物盗られ妄想にはどう対応したらいいの?
物盗られ妄想は対応の仕方によって
ますます症状が悪化してしまい落ち着いてもらうことがますます困難になってしまいます。
物盗られ妄想が現れると
「泥棒なんて入ってない」「私は盗ってない」とどんなに説明しても
自身の考えを変えることはありません。
そして、その時の私たちの発言や対応によって
本人の自尊心を傷つけてしまってはさらなる興奮や怒りにつなげてしまうことにもなってしまいます。
否定しないで話をきく
物盗られ妄想の症状が現れたときは
あなたが犯人ではなかったとしても、ありえないような非現実的な訴えがあったとしても
決して否定することなく、訴えに耳をかたむけて聞いてあげることが大切になります。
あなたのことを泥棒の犯人だと疑いをかけられている場合も
「違う!私じゃない」と否定したところで本人は納得しません。
また「なくしたあなたが悪いんでしょ!」なんてふうに
本人を攻めるような発言は自尊心を傷つけることになるので絶対に言ってはいけません。
認知症の人にこのような否定の発言をすることで
本人の中で、被害的な感情や怒りや悲しみ、苦しみが生まれてしまいます。
そして自分自身の感情をコントロールすることができず混乱し
被害妄想が強くなりますます訴えが強くなるという悪循環が生じます。
なので、「あなたが盗った」と犯人扱いされて
物盗られ妄想の対象になたとしても、否定も肯定もせず
「大切なものがなくなって困っている」ことに対してゆっくりと共感して話を聞きましょう。
共感しながら話を聞くだけで妄想がなくなることもあります。
一緒に探して自分で見つけさせる
話を聞くことで一時的に被害妄想が落ち着いたとしても
なくなった(とされる)ものが見つからなければ元も子もありません。
少し落ち着いた段階で「一緒に探しましょう」と声をかけて一緒に探しましょう。
もしあなたが先に見つけた場合には
本人が自分で見つけやすいところに置きなおして自分で見つけられるようにしてあげましょう。
あなたが盗って「バレたから元に戻した」と新たな被害妄想に陥る可能性があるため
本人が見つけられるように対応することが大切になります。
盗られたものが見つからない場合は
認知症の人が「盗られた」というものは、
実在するもののこともあれば、実在しないものの場合があります。
介護施設に入っている場合だと、
利用者さん本人が財布を自己管理していることはないですよね。
盗られたものがみつからない場合や、
ないものを盗られたと訴える場合はちょっと大変です。
一緒に探すはいいものの、見つからないのですから…。
この場合は、
「今は見つからないですね、あとでもう一度探しましょう」
「疲れましたね、少し休憩しましょうか」
などと伝えて一度作業を終了させて
お茶などを飲んで話題を変えて対応するようにしましょう。
もの盗られ妄想の出現を防ぐには?
物盗られ妄想はタンスや引き出しなどにシールを張って
どこに何が入っているかが一目見てわかるようにするなどといった工夫で防げることがあります。
そうすることで、決まった場所に片づけることができ
決まった場所から取り出すことができるようになります。
また、物盗られ妄想の原因のひとつでもある
不安やさみしさなどを取り除いてあげることも予防策になります。
認知症の人の困った行動の多くは「心の状態」で現れることが多いです。
日常生活の中でひとりぼっちで過ごす時間を減らし、
些細なことでも話しかけて気にかけてあげるようにしたり、ゆっくりと話しを聞いてあげる機会をもつなど
コミュニケーションの時間を増やすことで症状が落ち着くこともあります。
まとめ
物盗られ妄想が現れた場合には、
どんなに矛盾したおかしなことを訴えてきたとしても
本人の訴えを否定することなくじっくりと話しを聞いて共感してあげるようにしましょう。
また、日ごろから本人とゆっくりと関わる時間を持つことも症状の軽減につながります。
犯人扱いされると私たちも心穏やかでいられなくなる場合もあると思いますが
言い合いをすることは悪循環につながることを心得ておき、冷静に対応していきましょう。