この記事を読むのに必要な時間は約 11 分です。
現場で仕事をしていると「それは虐待になりかねないよ」
なんて管理者やリーダーから注意を受けた経験、あなたもありませんか?
え?ギャギャ虐待!?
わたし利用者さんを叩いたり蹴ったり
怒鳴ったりいじわるなことなんて何もしてないんだけど…
虐待だなんて心外だ、何がどう虐待なのさ!
っておもっちゃいますよね。
ここでは介護現場でいう高齢者虐待にはどんな種類があるのか、虐待になりうるケアはどんなケアなのかについてまとめています。
高齢者虐待のイメージ
「虐待」と聞いたらあなたの頭の中にはどんな映像が思い浮かびますか?
利用者さんを叩いたり蹴ったり罵声をあびせたり…
暴力や暴言などを想像する人がほとんどなのではないでしょうか。
最近ニュースでもよく「〇〇介護施設で虐待があり行政処分となりました」などの報道が増えいていますよね。
放送される隠しカメラの映像や音声を見ていると、本当に心苦しい限りです。
介護が必要な高齢者がケアをうけずに虐待をうけるって…。
介護士として以前に、人としてどうなの?って行動ですよね。
このような、ニュースで報道されるような虐待は誰がなんと言おうと虐待で
悪意のある故意的な「いじわる・いじめ」に該当するわけですが
じつは、暴力・暴言だけが虐待ではなく
知らない間に無自覚で虐待をしてしまっているケースも少ないくないのです。
虐待にはいろんな種類がある
叩いたり蹴ったり殴ったりする暴力行為や、暴言を吐くことだけが高齢者虐待ではありません。
話しかけられているのに無視をしたり、介護をしないことも虐待の一種です。
また、わたしたち介護職員の不適切なケアが「虐待」になってしまうこともあります。
「そんなつもりがなくても」です。
<身体的虐待>
身体的虐待とは、利用者さんの身体にケガをさせるような行為(暴行など)をすることを指します。
もちろんケガをしなかったとしても、ケガをさせる恐れがある行為をすることは虐待になります。
- 平手打ちをする
- 入浴で熱いシャワーをかけてやけどを負わせる
- ものを投げつける
- 抑えつけて介護をする
- 拒否しているのに無理やり食事を食べさせる
また、身体拘束も身体的虐待に分類されます。
- ベットに縛りつけて降りれないようにする
- イスに縛り付けて立ち上がれないようにする
- 車いすにテーブルをつけて立てないようにする
- おむつを触らないようにつなぎ服を着せる
- 強い向精神薬を飲ませて活動を制限する
<介護・世話の放棄・放任>
在宅介護で問題になっていることが多い介護放棄 (ネグレクト)ですが介護施設でも、ハードスケジュール・人手不足によって起こりうる虐待ですよね。
- 入浴させず異臭がする
- 髪の毛・ひげ・爪が伸び放題
- 汚れた服・破れた服を着せている
- 部屋のごみが放置されている
- 必要なめがねや補聴器を使用させない
- 処方された薬を飲ませない
内容を見ると、ちょっぴりドキッとしちゃう人もいるかもですね。
<心理的虐待>
精神的虐待ともいい、その名のとおり心に働きかける虐待です。
利用者さんの自尊心を傷つけるような言葉や行動、意欲や自立心を低下させる行為をさします。
- 「ここから追い出すぞ」など大きな声で脅したり怒鳴ったりする
- 威圧的な態度をとる
- 食べこぼしなどの老化による現象をあざけって笑いものにする
- 日常的にからかったり、見下したり侮蔑的な発言や態度をとる
- 「臭い」「汚い」など侮辱的な発言をする
- 子ども扱いするような呼称でよぶ
- 話しかけられても無視する
- トイレで排せつできるのに職員都合でオムツを使う
- 自分で食事ができるのに職員都合で全介助をする
<性的虐待>
利用者さんに、わいせつな行為をすることです。
- 性器に接触したり、キスなどの性的行為や性的な話を強要する
- 裸にしたり、わいせつ行為をさせて動画や写真をとる
- 排せつ介助のしやすさを目的に、裸のままにしあり下着のままにさせておく
- 人前で排せつさせたり、おむつ交換をする
- 排せつの場面を人に見せないための配慮をしない
<経済的虐待>
介護施設に入所しているとお金の管理は家族がおこなっているのであまり事例がないかもしれませんが、本人の合意なく、財産やお金を使ったり理由なく制限すること行為をいいます。
- 施設にお金を寄付・贈与するよう強要する
- お金を無断で使ったり処分する
- お金を貸してほしいと頼んで借りる
介護施設で虐待が起こる理由
なぜ利用者さんの暮らしをサポートするべき介護施設で虐待が増えていると思いますか?
職員の教育不足で知識が乏しい
虐待がおこる原因のひとつは、介護職員の知識不足があげられます。
「虐待=暴力・暴言」というのは誰がどうみても虐待に該当しますが、暴言・暴力ではない虐待の存在を介護する側の人間が知らずにケアをしてしまっているわけです。
介護施設で働く職員すべてが、福祉の学校で1から介護を学んできたわけではありませんよね。
わたしも含めて半数以上の人がからだでひとつで介護業界に飛び込み、全くの未経験の状態から現場で介護を覚えているのが現状だと思います。
利用者さんへの接し方や効率的な作業の仕方をじゅうぶんに学べないまま、
見よう見まねでがんばってきたという人がほとんどですよね。
そのため、どういった行為が虐待となるのか、何がダメで何がいいのか、
どのように考えたらいいのか、あやふやなまま介護をしてしまっているわけです。
いつしかそれが当たり前になり知識不足がゆえ
虐待にあたるようなケアをしてしまっていたとしても「気づいていない」。
自覚がないまま、日々利用者さんに接してしまっているのです。
ストレス、感情コントロールの問題
人手不足の今わたしたち介護職員がかかえる一人当たりの仕事の負担がとても重い状態です。
お休みも少ないし、不規則だし、肉体労働プラス認知症の対応となると疲れとストレスがたまっちゃいますよね。忙しいときの認知症の利用者さんのまさかの行動でイライラしちゃうし。
このままだと虐待しちゃうかも…とヒヤヒヤするとき、結構ありますよね。
そこで、本来であれば理性が働いてセーブできるはずなのですが
ストレスのはけ口として利用者さんへの虐待につながってしまうこともありうるわけです。
自分自身がイライラしていると、いいケアがで提供できないことは
頭でもわかっているけど、つい強い口調になってしまったり荒っぽい介助をしちゃう…。
それで悩んだり落ち込んだり。
こうやって反省して感情をコントロールできるようになればまだよいのですが
感情的になって怒鳴ったり押さえつけたり手をあげたりするようなところまで発展すれば
それは虐待といえます。
職員の生活や資質の問題
利用者さんがひとりひとり違うように、わたしたち介護職員もひとりひとり違います。
見た目も、育った環境も、暮らし方も、性格も、価値観も。
介護のすべてを穏やかに受け入れられる人もいれば、割り切っている人もいるし、
悩みに悩んでいる人もいれば神経質な人もいますよね。
介護に思いいれのある人もいれば、もちろんまったく無頓着な人もいます。
介護がやりたくて就職した人もいれば、介護しか働く場がなくて就職した人もいます。
同じ「イラッ」でもわたしとあなたではとらえ方、感じ方が違うように
私たち職員のもともとの性格も虐待の原因となる可能性があるのです。
身体拘束は認められることもある
虐待の中でも介護施設で大きく取り上げられる「虐待」の中に「身体拘束」があります。
ベットに横になった状態で腰にベルトをまかれて動けないようにされていたり
点滴を抜けないように手にミトンをつけられたりしていますよね。
車いすに座ってベルトで固定されてたりとか。
ああいうのです。
そもそも、身体拘束というのは利用さんが自分の意志で自由に動けないように身体を拘束したり制限することをいいます。
なので、からだを縛ったり固定していなかったとしても
ベットから落ちないようにベット周囲を柵で囲んだり、立ち上がりにくくするために椅子を極端にひいて座らせたりするのも、利用者さんの行動を制限する行為なので身体拘束になるわけです。
利用者さんの「安全のため」にやっていること・やろうとしている取り組みだけど
身体拘束に該当してしまうんですよね。
ただ、身体拘束が完全にダメかというと例外はあります。
3つの原則
厚生労働省では、3つの原則を満たしていれば「緊急時にやむをえない場合」は身体拘束を行うことが許されています。(許されているというとちょっと違うけど)
1.切迫性
本人または他の利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が高いとき
2.非代替性
身体拘束以外に代替する介護方法がないこと
3.一時性
身体拘束は一時的なものであること
身体拘束を行う場合は、一人の職員の意見や判断ではなく
複数の職員が参加するカンファレンスなどできちんと話し合いをする必要があります。
そして最終的には、家族に説明して同意をもらう必要があります。
家族の同意なく身体拘束を行った場合は、高齢者虐待防止法の違反となり行政指導をうけることになります。
まとめ
今回、高齢者虐待の種類を知って虐待は暴言や暴力だけを指すものじゃないことがおわかりいただけましたか?
あなたのふだんの何気ない声かけや効率アップ策が、もしかしたら利用者さんを傷つけているかもしれません。
それが「虐待」とまでは行かなくても、虐待になり得るかもしれない…とハッ!と気が付くことが、今後のケアの質に影響してくるのではないでしょうか。